潰瘍とは
「潰瘍」とは、炎症などによって皮膚や粘膜が深く傷ついてしまう状態です。
胃の壁は、食物側から粘膜層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(漿膜)下層、漿膜という複数の層から成り立っています。傷が浅く粘膜層だけに留まっている状態を「びらん」といい、粘膜筋板を超えてよりも深く進んでいる場合を「潰瘍」といいます。
胃・十二指腸潰瘍の原因
胃の中には強い酸性の塩酸と食物分解酵素であるペプシンなどが含まれた「胃液」が分泌され、タンパク質を分解しています。これら胃酸や消化酵素は「攻撃因子」とも言えます。
一方で自身の胃壁まで一緒に消化されないよう、胃からは胃粘膜を保護する胃粘液とそれを調節するホルモンも複数あり、これらは「防御因子」といえます。このように健康な胃は、攻撃因子と防御因子が相互にバランスをとって成立していますが、何らかの原因でこのバランスが乱れると、胃液は粘膜まで傷つけてしまいます。
バランスが悪くなる原因として真っ先に挙げられるのは「ピロリ菌感染」です。ピロリ菌に感染したままでいると、胃粘膜は常に炎症を起こした状態になり、胃潰瘍が発症しやすくなります。
薬剤、特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド薬などの副作用による胃・十二指腸潰瘍もあります。NSAIDsは頭痛や腰痛に対する鎮痛剤として病院で処方されることが多く、市販されている風邪薬などにも含まれています。
成分名はイブプロフェンやロキソプロフェンなどです。シャープな効き目と抗炎症作用で良く効く薬ですが、しっかりと用法を守って使用することが大切です。病院で胃薬を一緒に処方されている場合が多いのは潰瘍予防のためです。こうした薬を常用していて胃痛が起こった場合、服用を中止し受診してください。病院で胃薬がいっしょに処方されている場合は胃薬も必ず併用してください。
その他の原因としては、暴飲暴食、お酒の飲み過ぎ、激辛など刺激の強い食物の習慣的摂取、強いストレスなどが考えられます。また喫煙は血管を収縮させ、胃の運動機能を低下させたり、知覚過敏を起こしたりすることがあります。
胃潰瘍の症状
典型的にはみぞおちに痛みが起こります。この痛みは「鈍い痛み」と言う方もいれば、「キリキリした感じ」と表現される方もいます。痛みが強いからといって、潰瘍がひどいとも限りません。胃潰瘍による痛みは、お腹が空いている時や食後に起こりやすい傾向があります。
痛みだけでなく、げっぷや吐き気、嘔吐、呑酸(どんさん:酸っぱいげっぷ)、食欲不振などを伴うこともあります。潰瘍によって胃壁の血管まで傷つくと、吐血や黒色便(タール便)が現れ、出血によって貧血症状が起こることもあります。
胃潰瘍の診断
強いみぞおちの痛みがある場合は、胃潰瘍を疑い、胃カメラを行うことが最も重要です。カメラで詳細に観察することで、潰瘍のステージや重篤性が評価でき、内服治療でよいのか、入院での止血処置が望ましいのかを判別します。
実は、胃癌の中には胃潰瘍に類似した形態をとるものがあるため、胃カメラ施行時に潰瘍を見つけた場合は一部を組織検査し、悪性の腫瘍細胞の有無を確認することもあります。
胃潰瘍の治療
胃・十二指腸潰瘍は、ほとんどは薬の内服で完治できますが、出血している場合は胃カメラによる止血処置が必要です。その場合、迅速に入院での治療が可能な施設へと紹介させていただきます。
内服地領の場合、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)など、胃酸分泌を強力に抑制する薬を使用します。
これらの薬を服用すると、数日以内に症状が緩和され治ったように思えますが、深く傷ついた胃の粘膜が完全に治ったわけではありません。
この段階で、自己判断で治療を止めてしまうと、再発・悪化します。医師の指示に従って根気よく2か月の内服治療を続けることが必要です。